株式会社オフィス弁当の日公式サイトより掲載写真を引用させていただきました。
上の写真をご覧いただけますか?
親に作ってもらったお弁当を見せて喜んでいる写真、
ではなくこれらの弁当はこの小学生たちが自分で作った弁当なのです。
さらに、自分で献立を考え、材料の買い出しをし、朝早く起きて調理し、
弁当箱詰め、後片付けまでの全てを自分で実践して作った弁当なのです。
この子たちの笑顔は達成感と誇りに満ち溢れた笑顔なのです。
その背景には、一人の先生の強い信念と、想像できないほどのリスクを覚悟の上で、
子供の成長を最優先して取り組んだ活動があったのです。
冒頭からタイトルと関係ないような話から始まりましたが、
仕事を部下に振れない上司の心理と、とある小学校の自作弁当の話と、
共通した背景があることを感じましたので、
今回はこの点について書かせていただきます。
もくじ
1 「弁当の日」の取り組みの紹介
2 「できない」ではなく「できる機会を与えていない」
3 任せられない心理
4 まとめ
1 「弁当の日」の取り組みの紹介
冒頭に紹介しました「弁当の日」について、
この取り組みの概要を紹介させていただきます。
2001年、香川県・滝宮小学校で当時の校長だった竹下和男先生がスタートさせた活動です。
ルールは3つ。
- 献立・買い出し・調理・弁当箱詰め・片づけまで全て子どもだけで実践させるように促す。
- 5・6年生のみが対象。弁当作りの基礎・基本は家庭科の授業で教える。
- 10月~2月に月1回、1年で計5回実施する。
目的は、弁当に点数は付けず、
子供の自立のための環境を親達、先生達、地域ぐるみで作ること。
これに一番喜んだのは子供たちで、1回目は教室の中が大騒ぎになるほどでした。
竹下和男先生は子供が成長していく過程を
動物行動学的・発達心理学的な観点から、
この時期の子供達は大人や家族がしていることを、
一生懸命に見て、真似て、大人になろうとしているのだという事を説いています。
自分が台所に立つという事を通して、大人になる準備の一環である、
ということを子供が意識するのである。
取り組みの反響として寄せられたのは、
子供達・・・毎日食事を作ってくれる親に感謝したい
大変だったけどとても楽しかった
親・・・・・思春期で親子の会話が減っていたが、このおかげで会話が増えた
出来ないと思っていただけで、実はやらせていないだけだった
先生達・・・子供達はやりたがっていたのだということが分かった
授業だけでは見えない本来の個性が見えた
第1回目の「弁当の日」から取り組んだ子は、今では30歳を過ぎ、
自分の子供が「弁当の日」に取り組むようになった。
こうした取り組みをメディアが取り上げ、全国的に広がり、
すでに中学校、高校あわせて1935校(2021年4月現在)にのぼるそうです。
また、講演会のため助成金を出す企業が現れたことや、
いくつかの自治体が各学校に「弁当の日」を定めることで、
「子供が小さいうちに台所に立たせる」ということが
いかに意義のあることかが認められ広められています。
「100年後を変える」
「100年間取り組み続けたら、日本の社会はもっと良くなる」
ということを念頭に、竹下和男先生の活動は続けられています。
2 「できない」ではなく「できる機会を与えていない」
「包丁を持たせたことがない」
「ガスコンロに触らせるのは危険」
「早起きができない」
「朝の忙しい時に子供が台所に来るのは邪魔」
と反対する親は大勢いました。
先生たちもまた、
「学習指導要領にない仕事だ」
「保護者からの苦情の対応が大変になる」
と反対していました。
竹下和男先生は、この「弁当の日」の取り組みによって問題が起きた際には、
責任は自分一人のところへ来るようにしていました。
前例がない事を始めるにあたっては不安もあったでしょうが、
反対されてもなお、実践を強く進めた理由は、
この取り組みによって子供たちの人生が後になって必ず変わる、
という強い信念があったからでした。
そうした不安は見事に払拭されました。
子供たちは登校してから真っ先に自分で作った弁当を笑顔で見せ合う、
この表情が不安を吹き飛ばしてくれたのです。
弁当箱を開けて自作のおかずを自慢げに説明しあう子どもたちの笑顔が
朝から教室にあふれました。
「できない」のではなく、「できる機会を与えなかった」だけなのです。
「弁当の日」の取り組みを通じて子どもたちは自己肯定感を高め、
親への感謝の気持ちを持ち、食べ物と命の大切さに気づきはじめます。
また、献立の検討~後片付けまでの一連の流れも自分で計画するため、
「プログラミング的思考力」も身についていきます。
こちらの記事もご参照ください。
人事部必見!今後の人事戦略のカギとなる「プログラミング的思考力」とは?
そしてこうした子供が増えていけば、学校や地域が活性化されます。
子供の「自立」のための環境を、親達、先生達、地域ぐるみで
作りあげた大成功の事例であり、
組織マネジメントにおける「人材育成」のお手本のようなものとも言えます。
3 任せられない心理
さて、ここからはタイトルに戻り「仕事を部下に振れない上司」
についての話に触れていきたいと思います。
仕事を部下に振れない上司の心理ですが、
前述の親や先生達の心理に近いような気がします。
親は自分が弁当を作る方が煩わしいこともなくトラブルも起きないので、
わざわざ不安や心配を抱えて子供にまかせようとは思いません。
ましてやそのような事を強制されることには抵抗もあるでしょう。
先生達も同様です。
こうした親からの不満や愚痴は、校長ではなく自分達に来るのですから、
分かり切っている余分なことを、あえて進んで引き受けようとはしません。
成功するかも分からない事よりも、自分の「今の忙しさ」を優先したくなります。
仕事を部下に振れない心理も、これと同じ理由から「任せない」
のではないでしょうか。
言い換えれば、「今さえ何とかなっていればいい」とも言えます。
しかしこのような考え方の上司の下では、残念ながら部下は成長しません。
任せることにはリスクが伴います。
任せるためには教える時間が必要になります。
任せてミスやトラブルが起きた場合、
責任を取るのは自分です。
上司から怒られるのも自分です。
しかしそれ以上に、部下の成長を見込んで仕事を任せていかなければなりません。
しかし思い切って任せてみたら、小学生でも弁当を作れるように、
案外すんなり出来るようになるものです。
親や先生たちも後から気づいたのは、
「できない」のではなく、「できる機会を与えなかった」だけなのだ、
と言っていましたよね。
子供同様、部下も自分で出来るようになると、
自己肯定感が高まり自主的に行動するようになり、
組織全体が活性化されていきます。
それには、「任せられる」かどうか、が最初の1歩です。
4 まとめ
仕事を部下に振れない上司については、
「任せる」時のリスクを負えない事のほか、
「自分だけで抱え込みたい」
「部下に振ったら負担になって申し訳ない」
といった気持ちもあるでしょう。
しかしどれをとっても、部下には成長の機会が与えられない、
という状況は同じです。
以前に「権限委譲」について書いた記事がありますのでご参照ください。
部下が成長しなければ、上司の評価も上がりません。
組織に取り残される前に、自分の役割・責任をあらためて考えましょう。
冒頭に掲載した写真に写る笑顔と同じように、
部下の将来を大きく左右するのは、
その上司の考え方で決まるのです。
今回はこのあたりでご無礼させていただきます。
本記事が、仕事を部下に振れずに悩んでいる皆様のお役に立てましたなら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※株式会社オフィス弁当の日公式サイトより一部文言を引用させていただきました。