フリーマン柴賢二郎の流儀
~そよ風に吹かれて、ゆっくりと歩いていこう~
世の中に起きている不思議なことや、独り言などをゆる~く書き綴る。
何の専門家でもない私が経済的自由を得て、人生のこと、世の中のこと、
幸せについてなど、一般庶民の目線で考える。
「努力できるか」は遺伝で決まる?脳科学から紐解く部下育成とマネジメントの極意
部下の育成において、「なぜアイツはもっと努力できないのか」「根性が足りないのではないか」と頭を悩ませた経験を持つ管理職は少なくないはずだ。
従来、努力とは本人のモチベーションや気合い、道徳観といった精神論の領域として語られがちであった。そのため、地道に努力する部下を高く評価し、要領よくこなそうとする部下を「怠慢だ」と決めつけてしまう偏見も生まれやすい。
しかし近年の脳科学研究は、この前提を大きく覆す事実を明らかにしている。結論から言えば、「努力できるかどうか」の傾向は遺伝的・脳科学的に生まれつき決まっている部分が大きいのだ。
脳科学者・中野信子氏が紹介する実験データを紐解きながら、精神論から脱却したこれからの人材育成とマネジメントのあり方について考えてみたい。
- 「努力できる人」と「努力できない人」の脳内で起きていること
ある実験では、被験者に以下の2つの課題からいずれかを選択させ、その際の脳の活動状態を測定した。
・課題①:利き手の指で7秒間に30回ボタンを押す(簡単な課題/報酬は1ドルで確定)
・課題②:利き手ではない方の小指で21秒間に100回ボタンを押す(難しい課題/成果に応じて1〜4.3ドルの変動報酬)
この選択において、課題①を選んだ人の脳内では「島皮質(とうひしつ)」という部位が活性化していた。島皮質はリスクや損得勘定を司る部位であり、「確実に得られるリターンに対して見合う労力だけを払う」という合理的判断を下す際に働く。
一方、難しい課題②を選んだ人の脳内では「線条体(せんじょうたい)」の活性化が見られた。線条体は達成感や快感を司る部位であり、「結果が確定していなくても、高いハードルに挑んで達成すること自体」に満足感を覚える特性を持つ。
つまり、努力を苦にせず難題に挑むか、最小限の労力で最大の成果を狙うかという判断は、根性の有無ではなく、生まれつきどの脳回路が優先的に働くかという遺伝的要素に起因しているのだ。
- タイプ別に見る部下へのアプローチ
この脳科学的アプローチを現場のマネジメントに応用する場合、部下全員に一律の「努力」を強制することは非効率的と言わざるを得ない。
いわゆる「努力が苦手(=最小限の労力を好む)」なタイプに対し、「もっと情熱を持て」「泥臭く頑張れ」と要求しても、脳の仕組み上ストレスにしかならない。このタイプの部下に対しては、「やるべきタスクとゴールを明確にし、いかに効率よく完遂するか」という合理的なプロセスを提示する方が、はるかに高いパフォーマンスを発揮する。
山登りに例えるならば、目的はあくまで「頂上に立つこと」である。自力で足を鍛えて登りたい者(線条体タイプ)には相応の登頂ルートを用意し、ロープウェイや最短ルートを探して登りたい者(島皮質タイプ)にはその手段を認めればよい。プロセスは千差万別であり、目的が達成されるのであればアプローチの違いに優劣はないのだ。
- 部下を狂わせる「間違った褒め方」の罠
人材育成においては、日頃のコミュニケーションや「褒め方」も部下の行動特性を決定づける重要な要素となる。これを証明する2つの心理実験がある。
実験A:評価の切り口による挑戦意欲の変化
テストの後に「良い点数が取れてすごいね(成果・能力の評価)」と褒められたグループと、「前より工夫して解けるようになったね(プロセス・工夫の評価)」と褒められたグループに分けた。
その後、難易度の異なる課題を選択させたところ、成果を褒められたグループは「失敗して評価が下がるリスク」を恐れて簡単な問題ばかりを選ぶようになった。一方で、プロセスや工夫を褒められたグループは、未知の難しい問題へ積極的にチャレンジする傾向を示した。
実験B:「能力」を褒められた人間の虚飾行動
子どもたちに「頭が良いね」と能力を直接褒めたグループと、特に能力に言及しないグループを作り、全員に難問を解かせた。全員が低い点数しか取れない状況を作り、全員の前で自分の点数を自己申告させたところ、「頭が良いね」と褒められたグループの約4割が、自分の評価を守るために嘘の着飾った点数を発表した。
「能力」や「成果」そのものを評価され続けると、人は「優秀な自分」という仮面を守るために失敗を隠蔽し、リスクを避けるようになる。大人の職場においても、ミスの隠蔽や挑戦回避の背景には、過去の誤った評価体験が影を落としているケースが少なくない。
- 目的達成主義へのシフトと評価の再定義
これらの知見から、管理職が現場で実践すべき育成の指針は次の3点に集約される。
➀「努力」そのものを目的化しない
大事なのは「努力すること」ではなく、「成果・目的を達成すること」だ。泥臭く時間をかけた努力も、要領よく最短で達成した努力も、成果が同じであれば等しく価値がある。
➁行動とプロセスを具体的に褒める
部下を承認する際は「君は頭がいい」「センスがある」といった定性的な能力評価ではなく、「今回の提案のこの工夫が良い」「課題に対してこのアプローチを試みた点が素晴らしい」といった行動や努力の具体的なプロセスに焦点を当てる。
③個性の違いを受け入れる
自発的に難しい課題へ挑む部下もいれば、与えられた枠組みで無駄なくタスクをこなす部下もいる。後者のタイプに対して「努力が足りない」と感情的な評価を下すのは、マネジメント側の認識不足と言わざるを得ない。
まとめ
人はそれぞれ異なる脳の特性を持って生まれてくる。全員に同じ姿勢やメンタリティを求める指導は、育成ではなく単なる価値観の押し付けになりかねない。
「努力」という曖昧な精神論のフィルターを外し、部下それぞれの脳のタイプや行動特性を見極めること。そして成果に至る多様なプロセスを認め、正しいアプローチで言葉をかけることこそが、個人の力を最大限に引き出す現代のマネジメントに求められている。

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